木原幸志郎 個展「ぶらんこ」〈ARTDYNE・東京〉 2026/9/10-9/27
【アーティスト・ステートメント】
いつの間にか、絵から陰影や質感が抜け落ちていた。色や形は、空っぽになった。軽くなったそれらは、どこか宙に浮いているようにも見える。けれど、不思議と世界から切り離されることはない。そこには、重力が残っている。それは、私が生きているこの世界の痕跡のように思える。
木原幸志郎
この度、ARTDYNEでは、9月10日(木)~9月27日(日)の期間、木原幸志郎個展「ぶらんこ」を開催いたします。
木原幸志郎の絵画は常に変容を続けています。
木原はこれまで、自らつくったスライムのような立体物を撮影し、写実的に描くことで具象と抽象のあいだを探ってきました。そして、デビュー当時から描かれてきた重さを持った立体物は、セロファンのような透明な素材を使用した色の重なりの表現、さらに光や影を伴った風景のような空間へと変化を遂げています。
今回の作品では、これまで存在していた陰影や質感、奥行きが大きく後退し、画面にはより直接的に色と形が現れました。木原の絵画は「何を描くか」から「私たちは何を見ているのか」という問いへと、その重心を移しつつあります。
私たちは絵画を見るとき、色と形だけしかない画面であっても、身体や植物、風景の断片のような「何か」を本能的に見つけようとします。しかしそこに意味を定めようとした瞬間、それは再びただの色と形へと戻っていく。木原の絵画はそのような視線と思考の往復のなかで成立しています。
さらに、かつての作品では、重力は描かれた物体に作用していました。物には重さがあり、光が当たり、影が落ちることで、画面のなかにひとつの世界が生まれていました。今回、その物理的な重力は希薄になっています。しかし、色や形が置かれる位置や互いの距離、画面の上下左右との関係によって、そこには別の「重さ」が存在しています。本展のタイトル「ぶらんこ」は、こうした現在の木原の絵画を象徴しています。
ぶらんこは地面を離れていますが、重力から逃れることはありません。前へ進んでは戻り、上昇と下降を繰り返しながら、どこかへ到着することもない。木原の絵画もまた、具象から抽象へと一方向に進んできたのではなく、具象と抽象、意味と無意味、物と色、浮遊と重力。そのあいだを往復しながら、少しずつ姿を変えてきました。
個展「ぶらんこ」は、木原幸志郎が抽象へと到達したことを示すものではありません。絵画からさまざまなものが削ぎ落とされたあとに、それでもなお残るもの— 色と形、見るということ、そして世界との接点としての「重力」—を見定める。そんな展覧会を目指しています。
常に変容を続ける木原幸志郎の作品世界。これまで彼の作品を見続けてきた方にも、今回初めて作品に触れる方にも、絵画への探求を続ける木原の現在をご高覧いただければ幸いです。皆様のお越しをお待ちしております。